【Web巻頭言にかえて】「批評」や「カルチャー」から欠け落ちたもの


◆2:Webで接続を生むために

僕たちは、別に紙に対するフェティシズムで雑誌を出していたわけではない。機関誌『アレ』は、先にも触れた通り抽象的で大きなテーマを特集として掲げ、それについて多方面から語っていくことで日常に目を向け、公共性を再発見してもらうことを目的としている。この目的を達成するには、Webよりも紙の方が向いていると僕は思っている。

しかし、「メディア」や「場所」といった抽象的で大きなものを特集テーマに掲げると、記事は長く、内容は重くなりがちである。ロングインタビューなどがその典型だ。こうした記事は腰を据えてじっくり読んで欲しいので、ページをめくったり、両手で持たないといけない紙媒体の方が相性が良いように感じる。

また、紙媒体は実際に手に取れる「モノ」として存在するからこそ、「特集」というパッケージングの強みが最大限に活かせるとも考えている。

さらに、編集者目線で見ると、一度発行された紙媒体は変更が難しいため、執筆者とのやり取りは慎重になる。そのため、重い内容の記事とも相性が良く、議論に議論を重ねて、記事の質を上げることにも繋がっていると思う。

このような思想から、〈アレ★Club〉は「雑誌の発行」という形で活動を開始したわけだが、これからも紙での活動、すなわち『アレ』の刊行は続けていく。だが、紙の活動で取りこぼしたものもたくさんある。それを拾い上げるために、僕たちは今回、新たにWeb版を立ち上げた。

■Webだからできること、Webから抜け落ちているもの

Webの強みを考えていると、まず即時性や拡散力が挙げられる。短めの記事もWebの方が読みやすいだろう(短過ぎる記事の場合、紙では読み飛ばされる可能性もある)。そのため、今までの紙媒体の雑誌では、3000~5000文字程度の短い記事や、即時性の求められる時事問題を別の視点と結び付けるような記事は、どうしても難しかった。

また、紙媒体では寄稿してくれる方にとっての敷居が高くなってしまうのも事実だ。僕たちのコンセプトの関係上、どうしても寄稿者の方は書き慣れている方が中心となる。実際、面白いネタを持っていても、文字数や編集工程に時間がかかるなどの問題から、声をかけられなかった人が何人もいる。

こうしたことを踏まえて、Webマガジン「コレ!」は、今まで『アレ』で取りこぼしてきた短めの記事や時事ネタなどを取り上げつつ、新たな寄稿者の開拓を目指すために立ち上げられた。ここで扱われる内容は、「アレ」という抽象的な内容ではなく、「アレ」を構成する具体的な「コレ」になるはずだ。

「コレ」は個別の対象だ。個別の対象を語るということは、現象を語るのとは異なり、他の対象へと跳躍することは難しいかもしれない。だからこそ、このサイトという一つのパッケージが必要となる。一つ一つの記事がたとえ記事内で十分に跳躍しなくても、それを試みようとしてさえいれば、他の記事と紐づくかもしれない。そのために、Webで記事を出し、拡散させ、他の記事も読んでもらう。

そして、多くのコミュニティにコミットさせることで、書き手にも読者にも、多くの文脈を持ってもらう。こんな風に「幾つもの『コレ』について考えてもらい、それらが紐づいて大きな『アレ』についても考えてもらう」というのが、この「コレ!」の目的だ。

しかし、WebにはWebの問題点があるのも事実だ。これは散々言われてきたことだが、現在のWebメディアは拡散(Buzz)に走り過ぎている傾向にあり、読み応えのある記事がなかなか生まれない。現在、多くのメディアは読者に共感され(もしくは狙って炎上し)、SNSで共有されることだけを重視しており、その結果、粗悪な記事を乱発している。どんどん粗悪になっていく「BuzzFeed」の記事はその典型だろう。

言ってしまえば、今のWebコンテンツの多くは「いいね!」の最大瞬間風速を狙い、連続的に共感を巻き起こし、読者に消費されることでPV数を稼ぐモデルで動いている。このモデルの中に、現代の読者のライフスタイルは組み込まれてしまっている。このモデルとライフサイクルの中では、たとえ良質な記事が生まれたとしても、日々流れてくるBuzzの濁流に流され、忘却されていってしまう。

これは、僕たち(あるいは別のメディア)が良質な記事を出し続けるだけで解決するような問題ではない(どのような記事が良質な記事かは一旦置いておこう)。とはいえ、多くのWebメディアは読者の人生を変えるような記事を出したいはずだし、できることならそれだけで収益を出したいと思っているはずだ(と僕は信じている)。しかし、そう願っても、良質な記事は右から左に流れていってしまう。これは、もはや記事の質の問題だけではなく、今のメディアを取り巻く経済的な仕組みの問題なのだ。

この記事の読者はもう気付いているだろうが、このサイトだって広告を貼り付けて収益を出そうとしている。僕たちにも私生活があるし、非営利団体とはいえ、維持にはコストがかかる。僕たちの年収では利益を出さなければ、継続的に活動を行っていくこともできない。

だが、僕たちはBuzzを用いないオープンなメディアの形を模索していこうと思う。僕たちは、できる限り良質な情報を読者に提供する。そして、記事が生み出す議論や共感はもちろん、僕たちは「記事が生まれる工程」をも提供していく。Buzzを受け取ったり、自分を燃料にしてBuzzったりすることだけが生きる方法ではないはずだ。

新しい生き方を創り出すためには、新しい収益の仕組みを考える必要もある。会員制のようなやり方もその回答の一つだろうが、僕たちの活動が「趣味」と「仕事」の間にある以上、そうしたやり方は上手くいかないと思う(規模が大きくなればその時に考えるかもしれない)。

そのヒントは、紙媒体にあるのではないかと思う。情報の蓄積のために必要なことを一つのWebサイトでやるための方法は、Web特集や特集のアーカイブ、「note」の投稿やPDFの形でWebにリンクを置く、年間Best記事方式……といったように、幾らでも思い浮かぶ。そして、これらの殆どは紙媒体の手法だ。

始めは手探りになるだろうが、紙媒体を、それも同人誌という形で今まで作ってきた〈アレ★Club〉だからこそ実現できる何かがあると思っている。だからこそ、僕たちは「コレ!」を立ち上げた。

◆まとめ:「アレ」という抽象的な内容ではなく、「アレ」を構成する具体的な「コレ」

長くなってしまったが、ここまで僕が話したことを最後にまとめよう。

1.現代には、たくさんの話題と、それに関するコミュニティが大量に存在する。だが、コミュニティを横断して議論するための土壌がない。そのため、共有できる文化を生み出せていない。

2.近縁のコミュニティだけを内部に取り入れ、その内部にだけ発信し続ける「語り」のやり方から抜け出すために、第一に「目線」を増やせるような考え方を提供し、第二に「日常」と「公共性」に注目する。そんな問題意識で〈アレ★Club〉を立ち上げて、『アレ』という雑誌を作ってきた。

3.しかし、紙媒体であった『アレ』には限界があった。そこで、『アレ』で取りこぼしてきた短めの記事や時事ネタなどを取り上げつつ、新たな寄稿者の開拓を目指すためにWeb版を立ち上げる。

4.Web版の立ち上げに際し、現在のWebが抱える「Buzzの連発に依存し、情報の蓄積が起きにくい」という問題にも立ち向かうべく、Buzzに依存しない記事作りと収益体制を模索していく。

さて、この記事で曖昧だった〈アレ★Club〉の輪郭が浮き上がってきただろうか。「謎の団体」から「不思議な団体」くらいに皆さんの認識が改められたら、嬉しい限りだ。

ところで、僕たちは先にも触れた通り、僕たちの活動に賛同してくれる協力者を探している。もし、紙版(『アレ』)・Web版(「コレ!」)問わずに寄稿してみたいという方や、イベントを一緒に行ないたいという方がいれば、プロ・アマを問わず、下記にあるお問合せページからご連絡願いたい。

【執筆者募集フォームリンク】

最後に、これから新たに始まるジャンル不定カルチャーWebマガジン「コレ!」、これからも続いていくジャンル不定カルチャー誌『アレ』、そして、僕たち〈アレ★Club〉の活動にご期待あれ。それでは、「アレ」を構成する具体的な「コレ」を探しに行こう。

[記事作成者:堀江くらは]