ファクトチェックを巡って:真理を待ち始める瞬間


◆海外と国内の論争で難解になったブルーライトの記事

先日、Twitterからこんな記事が回ってきた。

「スマホのブルーライトで失明はしない」米国眼科学会、大学の研究結果に真っ向から反論【UPDATE】(HUFFPOST)

スマホのブルーライトを巡る論争を報じた記事で、トレド大学が発表した論文に対し米国眼科学会が反論をした、という内容になっている。筆者も現在かけている眼鏡にブルーライトをカットするコーティングを入れるかどうかで悩んだことがあるので、気になる話題ではある。が、今回の本題はそこではない。ブルーライト云々というよりは、このニュース記事そのものが今回の本題なのだ。

眼科医「メチャクチャな記事だ」ブルーライトに悪影響はないという記事は誤訳か(AbemaTIMES)

こちらはAbemaTV『AbemaPrime』の内容をAbemaTIMESが記事にしたもので、上述した記事をはじめとする幾つかのネットニュースの「誤訳」を取り上げたものとなっている。もう一度先ほどの記事の冒頭を見ると、

【訂正】当初の記事では、「スマホのブルーライトで視力は低下しない」というタイトルにしていましたが、正しくは「スマホのブルーライトで失明しない」でした。タイトルと本文を訂正し、お詫びいたします。(2018/10/05 15:08)

といった訂正が入っていることが分かる。実は「スマホのブルーライトで失明しない」といった内容のニュースを、「スマホのブルーライトで視力は低下しない」と誤訳してしまったらしいのだ。ブルーライトにより失明を伴う重篤な病気にかかるか否かと、ブルーライトによる眼精疲労や視力低下とは確かに別の問題だろう。記事の中で慶応義塾大学医学部教授の坪田一男は眼球トレーニングの危険性なども説明しながら、ブルーライトに関する解説を改めて行っている。

「ブルーライトは視力に影響しない?」 国内外で論争(朝日新聞)

こちらは上の二つの記事よりも後に公開された記事で、こうした論争の様子をより包括的に解説している。この記事を読んでようやく全ての状況を俯瞰して見ることができるようになったわけだが、海外での論争に国内での誤訳を巡る論争が重なり合い、かなり面倒な事態になってしまったことが分かるだろう。

ファクトチェック(ある情報の正確性や妥当性を調べる行為)は、今となってはインターネット上で日常的に行われている。様々な虚報が乱れ飛んでいるとされる現代において、ファクトチェックはいまや情報時代の「倫理」にすらなりつつあると言えるかもしれない。

今回の誤訳に関する指摘も、ある種のファクトチェックと言ってしまって構わないだろう。もっとも、今回のようなある程度大手のwebメディア上での正確性を巡るファクトチェックであれば、いわゆる政治的な問題でのファクトチェックほど微妙な問題にはならないだろう。むしろこうした話題で相互的な情報の補正が早期に行われる分にはメリットしかないとも言える。

◆情報が未来を人質に取るとき

ただ一方で、答えの見えないファクトチェックが続く中で疑念を抱き続けるしかない、そんなケースもあることは事実である。もう一つ別の話題に関する記事を紹介しよう。

ニンテンドースイッチの新型が2019年後半に発売か―事情を知る複数の関係者が明らかに(INSIDE)

こちらはYahoo!ニュースの記事で、ウォール・ストリート・ジャーナルが「ニンテンドースイッチ」の新バージョンを来年にも発売する計画を報じたことを伝えている。記事にはウォール・ストリート・ジャーナル(以下WSJ)へのリンクが貼られており、そこから下記の元記事を読むことができる(当該記事は現在有料になっている)。

任天堂、新型スイッチを2019年後半に投入へ=関係者(THE WALL STREET JOURNAL)

ファクトチェックの話を前置きしたのでもうお分かりだろうが、この記事の内容が嘘なのではないか、という話が持ち上がっているのだ。実際にTwitter等でこのニュースについて検索するとこれらの内容を嘘なのではないかと批判するアカウントを幾つか見つけることができる

この話題について解説しているブログ記事があったので紹介しよう。

【新型Switch】任天堂スイッチの新型が発売されるってニュースは本当?ガセ?その機能と発売日や記者の望月氏について。(GCC’s blog–スマブラDX情報誌–)

この記事ではWSJの当該記事に関する説明や新型スイッチに関する公式発表の有無、当該記事の記者である望月氏に関する解説からTwitter上でのコメントの紹介まで、様々な角度からアプローチを行っている。

重要なのは、この記事内でも「新型スイッチはでない」と強く断言することはできていないということだ。1年以上も先の話題を取り上げたものであり、記事内の具体的なソースも秘匿され関係者のコメントもないのだから確信をもって是非を断言できないのも当然ではある。とても疑わしいがグレーなので、どうしても気になる人意外は忘れてしまって構わないだろう、といった体の結論に収まっている。

筆者も年末に発売されるスマブラのためにスイッチを買おうとしているので、この記事については批判が広がり始めるよりも前に触れている。主観的な感想を述べさせて頂くなら、現状ではやはり記事の真否を断言するのは難しいという印象だ。

上述したブルーライトの論争のように、各メディアで早期に情報の補正が行われる話題があれば、新型スイッチの話題のように真否が微妙にぼかされる中で大手メディアがその情報を引用するケースもある。ブルーライトにしても海外で行われている健康被害に関する論争そのものはまだ決着がついていないのだから、我々はこうした情報が今後より高い精度で更新されるのを待つしかない。

◆最後の「真理」を待ちながら

筆者が<アレ★Club>に入るとき、編集メンバーからこういうアドバイスをもらったことを思い出す。

「<アレ★Club>で記事を書くときは、必要な情報をどうやって手に入れるのか、よく考えて工夫した方がいい。検索ワード一つ違うだけでも手に入る情報は様変わりするから」

現代のインターネット社会においては、情報の需要者である我々の検索技術こそが、入手できる情報の精度を大きく左右してしまう。それでも結論の出ていない話題や、未来のことまでは勿論分からない。どうしても結論のでない話題や噂に直面したとき、そして個々人の検索技術の限界に達したとき、我々に可能なのはその情報に割くリソースを一旦減らして、ただ待つことだけなのかもしれない。

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[記事作成者:さいむ]