自由な作品鑑賞を実現するには:『ドラゴンボール』の記事から考える


先日、突然『ドラゴンボール』の話題がTwitterで盛り上がったので何事かと思っていたら、こちらの記事がその原因だったらしい。

『ドラゴンボール』を読んだことのない僕が、先輩に反論するために全巻読了した結果

先輩に『ドラゴンボール』を読んでいないことを責められたライターが反論するために『ドラゴンボール』を読んでその批判を行ったという記事で、ライターの視点に納得する人や作品批判のの内容が雑だと批難する人、そもそも先輩の勧め方が悪いと言う人など様々な意見が入り乱れて賛否両論の状態となっていたようだ。Togetterのタグから検索するとその状況が大体わかるだろう。
さて、実はこの記事そのものが今回の本題というわけではない。筆者がこの記事や上記の感想を読んでふと思ったことは、「自由な作品鑑賞とはどうすれば行えるのか?」ということだ。

◆鑑賞の入り口としての「広告」

漫画やアニメ等、その全体像を鑑賞するのにある程度長い時間を要する媒体を鑑賞する際、そこには必ず入り口としての役割を果たす広告や宣伝が存在する。アニメであればOPであり、漫画であれば表紙や各連載の扉絵となる。それ以外にもTV・ネットでのCMや雑誌の広告、口コミ等様々な入り口を介して作品は読者を誘うことになる。
たいていの場合、このうち作品の制作側に属する広告や宣伝を入り口とするのであれば「自然に惹かれて私はこのコンテンツを手に取った」と鑑賞者は考えやすくなる。対して、他の鑑賞者による口コミも入り口となる宣伝としては有効に作用するものの、そこでの人間関係によっては「この人が嫌いだからこの作品も嫌い」となるリスクも多分に含まれることになる。一つの作品に対して多数の鑑賞者がつくのが基本である以上、そうしたすれ違いが起きることは避けられないだろう。そうして他人の作為を強く感じると、そこから得られた鑑賞体験も偽物のように感じられてしまうのだ。
勿論、これは傾向であって例外も存在する。公式の押しつけがましい過剰な広告に嫌気が差したり、逆に同好の士が新たに発見したコンテンツに目の色を変えて飛びついたりすることもある。端的にまとめれば鑑賞者が違和感を覚えるか否か、という部分にその正否がかかっているのだが、これは個々人の感性にも左右されるため画一化は難しい。
そうなると、自由な作品鑑賞というものは偶然や運の産物であるも同然のものとなってしまう。そもそも自身で作品を探すという行為そのものがそうした違和感を覚える入り口を招いてしまうことにもなりかねないからだ。情報の入手方法はある程度こちらで操作可能だとしても、イレギュラーは発生してしまうだろう。

◆インプット/アウトプットの境を超えた作品鑑賞

では、どうしたらそうした違和感のある入り口を突破して自身の視点で作品を観ることができるのだろうか。筆者もこの問題ついては前々から薄々感づいていて、解決策がないものかあれこれ考えていた。鑑賞体験そのものが個人の主観に委ねられる以上、絶対の正解はない。それでも敢えて筆者の考える解決策の一つを挙げるのであれば、それは作品を鑑賞した感想を何らかの形でアウトプットし、世間やインターネットにアウトプットに広く発信することではないだろうか。
事前に断っておくと、作品鑑賞はインプットであってアウトプットではない。両者は根本的に別物だ。ただ、そうであるが故にアウトプットは自身が溜め込んだものを一方的に外へと発信することができる。発信された情報が外部から干渉されることはあるだろうが、発信者自身までもが直ちにそれに侵されることもない。自身の鑑賞体験を外部化することで、情報を摂取し続ける自身から鑑賞体験を自由にすることができるのだ。
勿論これには欠点も存在する。我々が作品の入り口となる広告を批難するように。我々が発信した感想もまた他者に批難される可能性があるということだ。これはTwitter等のSNSではより活発になる。以前<アレ★Club>の編集メンバーの一人が「SNSでは共有機能や評価機能のように、情報を受信する行為が同時に情報を発信する行為にもなりえてしまう」と話していた。そうした相互参照が永久に繰り返される環境下では、どうしても自分の意見の形を保ちにくくなってしまうだろう。だからこそ、特定の他者だけに向けた専用のメッセージではなく、あくまでも自分の感想を形にすることに専念しなければならない。そうしてたった一人で作品と向かい合うという行為は、内から意見を絞り出すアウトプットによってこそ可能となるのだ。先輩を、そして作品を批判するためにドラゴンボールを読んでいたであろう当該記事のライターも、結局先輩という一個人への批判になってしまったことを除けば「自由な鑑賞」をしていたと言えるのではないだろうか。

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[記事制作者:さいむ]