「依岡隆児×礒井純充×アレ★Club」トークライブ@隆祥館書店イベントレポート


先日の10月14日(日)、大阪市安堂寺町にある隆祥館書店にて、ギュンター・グラス研究者の依岡隆児先生の講演会および〈まちライブラリー〉提唱者である礒井純充さんとの対談、そして当会代表および事務局長司会によるブックトークが開催された。第一部ではギュンター・グラスの生まれとその作品や、彼の文学と政治の関係性について、依岡先生から解説が行われた。とりわけ、彼の自伝である『玉ねぎの皮をむきながら』(依岡隆児訳、2008年、集英社)で初めて明らかになった、グラスがナチスの武装親衛隊(SS)に所属していた過去についての周囲の反応、また哲学者テオドール・アドルノの有名な命題「アウシュヴィッツの後で詩を書くことは野蛮である」についてグラスはどのように考えたか、そしてグラスの日本旅行のエピソードなどが語られた。

続く第二部では、磯井さんによるグラスが現実とどのように折り合いをつけていたかについて、事業としての〈まちライブラリー〉を運営している磯井さん自身の体験を交えながらトークが行われた。グラスは小説や詩などを発表しながらも、政治運動にも積極的にコミットしていた人物であった。とりわけ、SPD(ドイツ社会民主党)の支持者であった彼は、東西ドイツ統一問題についても積極的に発言し(グラス自身は東西ドイツの無理やりの統一に反対した人物だった)、人々に「じっくりと考えるよう」迫ったという。

そして第三部では、私(山下)と永井が持ち寄った本についてのトークを紹介した後、依岡先生や磯井さん、そして隆祥館書店の店主であり、本イベントの司会進行を務めた二村知子さんにお気に入りの本とその理由について話を伺った。時間の都合上踏み込んだ内容を伺うことはできなかったが、グラスも所属していた戦後ドイツの文学者グループである〈47年グループ〉の立役者たるハンス・ヴェルナー・リヒターとの関わりや、批評家のマルセル・ライヒ=ラニツキ、『ブリキの太鼓』を最初期に評価した批評家・詩人のハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーの解釈について話を行った。

個人的な感想を言えば、グラスはまさに「ゆっくりとした歩み」を大事にする作家であり、それはしばしば彼の作品にライトモチーフとして登場する動物たち(犬やカタツムリ、鈴蛙やカニ)の「歩行の仕方」にも関係している。そうした歩みを大事にするグラスに呼応するように、上記で触れたエンツェンスベルガーは東西ドイツ統一の4か月前に「歩くこととはよろめくこと(Taumel)の一種なのだ」と言ったように、東西ドイツ統一などのような大きな問題に対しては、できるだけ歩み寄り方というものを考えなくてはならないという警句にも似た響きを感じた。私たちは日々の暮らしの速度にあくせくしているが、時には歩みを止めたりあるいは遅くしたりすることで、問題をあらためてじっくりと考えることも必要なのではないだろうか。

その後、観覧者を交えたフリートークや依岡先生の著書『ギュンター・グラス 「渦中」の文学者』 (2013年、集英社)のサイン会なども催され、和やかな雰囲気のままイベントは終了した。依岡先生が関わっているビブリオラボとくしまの活動や、徳島大学の学内サークルで制作予定の同人誌についての意見交換も行われ、当会の機関誌『アレ』のコンセプトや、本を通したコミュニティ作りなどについて認識を改めるいい機会となった。

[記事制作者:山下泰春]