服を着ることができないということ:居場所を持てなかったペッパー君

◆古いロボットは要らない?

「ペッパー君」のことを知らない人は少ないだろう。おなじみ、ソフトバンクグループ子会社のソフトバンクロボティクスが事業展開しているロボットだ。正式名称はアルファベット表記の「Pepper」である。ペッパー君が様々な店舗に置かれているのを見たことがあるという人は多いだろう。

ご存知の方も多いかもしれないが、あのペッパー君はたいていの場合、ソフトバンクロボティクスから三年間の法人向けレンタル契約によって各法人向けに貸し出されていたものなのだ。そのレンタル契約は「Pepper for Biz」という2015年10月に開始したものである。つまり、サービス開始直後に契約を締結した法人にとっては、この2018年10月に3年間の契約が済んだ後もなおペッパー君をレンタルし続けるか否かはそれぞれの決断次第ということになる。

そんな矢先に、以下のようなニュースがちょうど昨日入ってきた。なんと、ペッパー君をレンタルしている法人の8割超が「レンタルを継続しない」方針なのである。

ペッパー君さようなら 8割超が“もう要らない” (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

このようになってしまった原因として、上記の記事では「客が飽きた」「かつてはPepper君ならではだった機能が、他の様々サービスでも可能になった」「レンタル代が高い」といったことが述べられている。たしかに、それもペッパー君が「要らない」と言われてしまった原因だろう。だが、筆者はそれだけが原因ではないのではないかと考えている。

◆愛がなければ生きられない、マジで

筆者が考えるもう一つの原因は、ペッパー君をレンタルした先の人々が、十分にペッパー君に愛着を持つことが出来なかったのではないかというものだ。愛着さえあれば、役に立たなくてもお金が多少かかってもそう簡単に「要らない」とは言われないのではないかと思ったのである(とはいえ、ペッパー君は法人向けの三年プランで約200万円というから、結構バカにならないコストがかかる)。

あまり役に立たなくても愛されるモノの典型がぬいぐるみだろう。最近でこそ喋る機能を搭載したぬいぐるみも珍しくはなくなってきたが、ぬいぐるみというのは捨てるに捨てられないものの一つである。

よりハイテクなところでいえば、マツコロイドなどの開発で有名な石黒浩教授の研究室で三菱重工製のコミュニケーションロボット「ワカマル」をやむなく大量に破棄した時の騒ぎのことを知っている人もいるかもしれない。ゴミ捨て場に破棄された大量のワカマルを写真にとってTwitterにアップロードした学生がおり、結果として「かわいそうだ」という旨の問い合わせが殺到することになったのである。

アンドロイドは人間になれるか

◆裸のロボット

ではペッパー君はどうすれば愛着を人々から勝ち得ることができたのだろうか?様々な方法が考えられるだろうと思うが、筆者はせめてペッパー君が服を着ることができればもう少し事態はマシになったのではないかと思っている。

服を着ることは、自分を文脈に包む行為である。どういう服装をしているかは、その人がどういう考え方をしているのか、どういう感じ方をしているのかについてのメッセージを否応なしに発してしまう。だからこそ、場違いな服装をした人は「浮いて」しまうのである。その服装が醸し出す文脈が、周囲の文脈と調和しなくなってしまっているのだ。

服装という観点から見ると、ペッパー君というのは基本的に全裸である。全裸であるがゆえに、だいたいどこに置かれていても微妙に「浮いた」存在となってしまっている。全裸である限り、ペッパー君はどこにいっても「ソフトバンクのペッパー君」でしかないのだ。「〇〇屋のペッパー君」や「△△モールのペッパー君」にはなってくれないのである(※1)

では、どうしてペッパー君は全裸なのか。実は、原因はレンタルした人たちがペッパー君に服を着せるという発想に至らなかったからというばかりではないらしい。ペッパー君に服を着せるのは危険を伴う行為なのである。どういうことか。

◆契約の壁

実は、ペッパー君に服を着せたりする際にはちゃんと定められた規則を守らねばならず、ペッパー君にコスプレをさせたりするには相応の良識か、あるいは覚悟が必要なのである。例えば、ペッパー君に塗装をした場合は壊れた場合などに無償修理が受けられなくなったりしてしまう。もし安心してコトの良し悪しを判断したいのならば、ペッパー君を使ったイベント経験の豊富な事業者に尋ねるなどのことが必要になるとも言われる。

Pepper(ペッパー)にコスプレさせると●●●ができない!? | Pepper/ロボットのレンタル・イベント運営 | ㈱生活革命

レンタルしている借り物である以上、そこに決まりが存在するのは当然のことだ。だからこうした規則を敷いていることをもってソフトバンクロボティクスを責めることはできないだろう。しかし筆者は、こうした規則を気にした結果、ペッパー君に大胆なことをさせたりすることを自粛してしまったケースがあるということは小耳に挟んでいる。よって、そうした規則ゆえにペッパー君が全裸であり続ける羽目になったケースは皆無ではないのだとは、言わざるを得ないのである。

◆ロボットを環境の中で生きさせる

それぞれの店舗や行きかう人々が形作る文脈の中に居場所を見つけ出すことは、そこに根差して「生きる」上で重要なことなのではないかと筆者は思う。実際、ご当地キャラなどでも、「ふなっしー」や「くまモン」といった多くのファンを勝ち得たキャラクターというのは、それぞれの地域に根差しつつも生き生きとしたストーリーを持っているキャラクターだ。文脈の中に入り込み、その文脈を構成する様々な人やモノとの交流が縁を作り絆を作っていくのではないだろうか。文脈の中に自分のニッチェ(適所)を持ち、文脈との関わり合いの中で生きることで、その生態系の一員になるのである。

そうだとすると、今回のニュースが示しているのは残念ながら多くの場所においてペッパー君は自身の居場所を持つことができなかったということなのではないだろうか。残念であり悲しいことであるが、これもまた残酷な歴史の一幕なのかもしれない。

【本の紹介】
初音ミクやゲームのキャラクターなどが日本の社会で受け入れられていく様などから未来について三宅陽一郎さんが語った『アレ Vol.2』と、ロボットに愛着を持ちすぎることの危険について警鐘を鳴らす株式会社「人機一体」の金岡博士のインタビューが掲載された『アレ Vol.4』はこちらから!

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【注釈】
(※1)
実は、ペッパー君用の服は2015年の段階から存在している。
https://www.gizmodo.jp/2015/11/151127npepper.html
それだけではなく、ソフトバンクによるペッパー君のオフィシャルウェアなるものも存在している。
https://www.softbank.jp/corp/group/sbr/news/press/2017/20171121_01/

[記事制作者:市川遊佐]

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