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私が『ひとりぼっちの地球侵略』と共に辿り着いた 「コンテンツ」の限界After「月姫で性癖を学ぼう!」

※本記事は『月姫 -A piece of blue glass moon-』及び『ひとりぼっちの地球侵略』のネタバレ、感想が含まれます。

※割と本人の主観的な気付きが先行した内容になっているので、特に『月姫R』の方の読み込みについては客観性を著しく欠いているおそれがあります。何かあればコメントやリプライで教えてください。

※結局自分語りです。途中で『月姫R』の感想はどっか飛んでいくよ。許して。



久しぶりにnote記事を書くことになりました。発端はタイトルの通り『月姫 -A piece of blue glass moon-』(以下、『月姫R』)を遊んで、個人的に大きな気付きがあったからなのです。

私は元々『月姫R』を物凄く楽しみにしていて、初回生産限定版を予約していたのに発売日当時に我慢できなくなってダウンロード版を新たに買っちゃって遊ぶぐらい、シナリオを読みたくて読みたくてたまらなかったわけです。

Nintendo Switch版を購入し、今まで一度たりとてデータを消したことの無かった『大乱闘スマッシュブラザーズSP』のセーブデータを一時的に退避させ、万感の想いを込めて遊び始めました。

まずはアルクェイドルートをクリア。とても面白かった。面白かったけど、まぁ、これは知っている内容なんですよね。というのも、佐々木少年先生の漫画版を読んでいたのもありますが、何よりここで語られている奇跡や運命の話というのは個人的には非常に馴染みのある話でして。

はい、言うまでも無く小川麻衣子先生のSFボーイミーツガール漫画『ひとりぼっちの地球侵略』のことですね(厳密に言えば奇跡の方はまた違う実体験なのですが、こんなところで話すこっちゃないので)。

私のこれまでの活動とか言動をご存じの方ならまぁ分かるでしょうが、私の『ひとりぼっちの地球侵略』(以下、『ぼっち侵略』)への思い入れたるや我が事ながら尋常なモノではなく、冗談でなくこの漫画のために可能な限りのリソースを費やし、またこの漫画を追い求める自分は何者なのかと毎日のように自問自答を繰り広げる毎日だったので、最早この漫画は私にとっての「運命」なんですよ。それにこの漫画を理解するために普段の思考や価値観を『ぼっち侵略』に合わせようと8年も悪戦苦闘したものですから、今やこの作品を通して読み取った作品の主題や主人公たちの生き様は私の人としての指針に限りなく近いところにまで根を張っています。それは最早〈ぼっち侵略〉という私自身が持つ独自概念であり、今更これ抜きで自分の思考や価値観を語ることが難しい程なのです。

だからアルクェイドルートを遊んだときの感想も、「めっちゃ楽しかったし感動もした。最適化され濃縮された無駄の無い美しさだった。でも、これは知っている」という感じでした。

問題はシエルルートでした。

ノーマルENDでのたうち回った後、トゥルーEDの大怪獣決戦にほとほと疲れ果て、やっとグランドフィナーレ。……面白かったけどコレお腹いっぱい過ぎる、無駄の無い美しさだったアルクルートの方が……と「fusetter(ふせったー)」で感想を綴りかけて、ふと思いました。

――あれ、でも一つ分からないことがあるぞ?

「迂遠」とか「蛇足」とか、読み疲れた疲労でそんな直情的な言葉が出そうになるのをどうにか堪えて考え直します。とはいえ、何が分からないのかもまだ不明瞭。モヤモヤの正体を解き明かすことに、まずは専念しないといけませんでした。

そもそもシエルルートのトゥルーEDの条件は、アルクェイドの好感度をおそらく最大まで上げることです。いや、なんでそこアルクェイドの好感度なんだよ!! しかも上げきったら上げきったで始まるのはシエルとアルクェイドの大戦争な訳で、円満な解決どころか寧ろ逆効果。壮絶な修羅場が展開され、挙げ句の果てに決着がついた後も志貴とアルクェイドの間でたっぷり会話が用意されていて、シエルの出番が喰われている。何故!? シエルルートのトゥルーEDなのにどうしてこんなことに!? 主人公の志貴も死徒になりかけの体になってしまったし、私はただメインヒロインをシエルに選んだだけなのに……と、ひたすら困惑したものです。

ここにシナリオのテーマ上でどのような理由付けが行われているかを考えることはさして難しくはないのかもな、とは思っていました。例えばそう、シエルルートにおいてもアルクェイドとの出会いは依然として変わらず、志貴にとってアルクェイドは依然として運命の相手の筈です。トゥルーEDにおいて好感度を上げてそれを補強する必要があるということは、シエルルートのトゥルーEDはアルクェイド運命の相手であることを受け入れ、それでもなお「運命」ではなく「自分が好きであると思えること」を選ぶという話なのでしょう。そんなことをすれば相応の試練が与えられるのもまぁ分かる話で。他にもシエルも志貴も自分の罪を償おうと思ったらこういうことにもなるよなーとか色々考えることはありましたが、取りあえずは自分の運命を認めた上でそれを選ばなかったから、という線で私はその場の納得を得ました。

でも、「じゃあ自分の運命を受け入れた上で、それでもなお選びたい別のモノって何?」という疑問がそれでも残ります。これが分からなかったわけですね。

私にとって「運命」とは『ぼっち侵略』のことなので、この問題を考えるのであれば〈ぼっち侵略〉という私だけの独自概念を隣に置いて考えるのが一番効率が良いです。つまりシエルルートとは、〈ぼっち侵略(独自概念)〉を否定することなく受け入れた上で、なお〈ぼっち侵略(独自概念)〉以外のモノを選ぶという話になります。いやマジでそんなエネルギー、どこから発生するんだ? さっぱり分からない……。

こうなったらシエルルートを読み直そう、どこかにヒントがある筈だ……と思ってスイッチを再起動したのですが……。

・「メガネが良い」

・「体が良い」

・「武器が良い」

・「服装が良い」

私「……~~~っっ要素の話しかしてねぇじゃねえかぁーーー!!!」

つまりどういうことなんだよ……パーツの話しかしてないんじゃ何も分からねぇよ……。

……一旦、『月姫R』の内容から距離を取ることにしました。私の場合こうなったら〈ぼっち侵略(独自概念)〉を主にして物事を考えた方が捗ります。私の思考や価値観とほぼ同義のモノなので。

取り合えず、アルクェイドに対して〈ぼっち侵略(独自概念)〉は機能している一方で、シエルに対してはそれがまるで通用していません。この事実は、多分応用が効く筈です。例えば……そう、『月姫』はとても面白いです。特に奈須きのこの文章が良い。この「きのこの文章が良い」という私の気持ちはどっからどう見ても〈ぼっち侵略(独自概念)〉ではないし、小川麻衣子先生も記憶にある限り奈須きのこに言及していたことは無いはずです。つまり私は〈ぼっち侵略(独自概念)〉ではないものを好きになっているし、これを〈ぼっち侵略(独自概念)〉だけで語りきることができない以上、この状況自体がシエルルートとある程度合致しています。

『ぼっち侵略』は自分の運命であると共に自分の自己理解の要になったモノです。これと向かい合うために続けてきた自分の生き方にまつわる自問自答の決着が一度つき、そこそこ作品と心的距離が離れた今でも、私の思考や価値観は〈ぼっち侵略(独自概念)〉に準じています。私が新しい作品に触れた際、特に価値観の一番深いところが揺さぶられたときはいつも必ず〈ぼっち侵略(独自概念)〉がそこにありました(何言ってるか分からないが本当にそうなんだよなぁ……)。それが使えないということは、自分の思考の埒外にあるモノに惹かれるということになります。

そこまで考えたところで、そんなことが一度あったことを、思い出しました。


そう、おかっぱです。


『ぼっち侵略』が終わった頃、私はおかっぱの髪の毛を自然と目で追う癖がついていました。「おかっぱ」といえば『ぼっち侵略』のヒロイン、大鳥先輩の髪型です。しかし私が好きなのは『ぼっち侵略』という作品のあり方それ自体であって、断じてヒロインの大鳥先輩ではありません。マジです。しかし目で追ってしまいます。二次元だろうと三次元だろうと二度見してしまいます。昔『ぼっち侵略』に関連する情報は全て拾おうと必死になっていた頃の名残と言えばそれまでですが、困ったことにこうして『ぼっち侵略』が作品的にも自分の中でも完結した後でもこの癖が治りません。「おかっぱ」は『ぼっち侵略』のヒロインの一要素であって、そこから『ぼっち侵略』全体を語ることなどできないというのに。

それを初めて自覚したとき、私は便宜上、それを「性癖」と呼ぶことにしました。知らない言葉で実感も湧かない言葉でしたが、他の人の見様見真似でそのワードをチョイスするしかなかったのです。


「……あ、分かった」


――劇的な、閃きでした。

そうか、これが「性癖」なのか。

自分の外にあるモノ、自分の運命とも重ならないモノ、それでも惹かれるモノに自分の内では決して生み出し得ない言葉で立ち向かう行為。

それが、性癖!!!!

自分と運命の外部にあるモノを選択する行為!!!!!

そっかそっかぁー! 言われてみればシエルルートなんて確かに性癖のオンパレードだもんなぁ! 納得!!


「……いや、今更!?」

我ながらドン引きです。だって性癖だよ!? そういうのって未成年のウチに解決するよなフツー!?

何故だ!? 何故気付かなかった!? 何故分からなかった!?

……深呼吸しましょう。こういうときは『ぼっち侵略』です。アレを読めば大体分かります。

素早くスマホを起動。紙の方でもいいですが今は一刻を争う事態なので電子書籍です。スイスイスイ。ページを進めれば馴染みきった内容が次々に視界へ送り込まれてきます。

「あーうん、なるほどね……」

再読がある程度進むに従って、朧気ながら結論が見えてきました。つまるところ、『ぼっち侵略』は性癖を前面に押し出すような作品ではそもそも無く、そして私はそれに甘えていたのです。

先に断っておくと、『ぼっち侵略』において性癖的な要素が皆無ということではありません。ヒロインである大鳥先輩に色々な格好をさせたり喜怒哀楽を満遍無く用意したりと性癖を刺激するような要素は徹底的にちりばめてありますし、そもそも作中で散見される他作品のオマージュの存在が、小川麻衣子先生のフェチズムとも呼べるものをしっかりと反映させています。

重要なのはそれが主題ではなく、また全面に押し出されるものでもないということです。私が学んだばかりの知識を応用して考える限り、性癖とは単にその対象となる要素だけでなく、それにアプローチする意思やコミュニケーションが必要な筈です。『ぼっち侵略』にはそれが足りなかった。いえ、おそらくは意図的に避けられていた、と言うべきでしょう。何故ならば『ぼっち侵略』のテーマとは「赦し」であり、それは主人公である広瀬君がヒロインの大鳥先輩と共に過ごすことで、その時間と経験を軸にして為されるものだからです。共に同じ場所で同じ時間を過ごす、そうした最小限の行為で「赦し」が成立することに重きを置いている以上、広瀬くんが大鳥先輩の要素に惹かれるような「近道」は用意されなかったのでしょう。実際、5巻や8巻でヒロインの大鳥先輩が主人公の広瀬君に対し己が性癖を押しつける描写を垣間見ることができますが、それらは全て今後の二人が成長していく土台としてのみ消費されています。『ぼっち侵略』において「性癖」とは、あくまでも経過に過ぎないのです。

そして『ぼっち侵略』を必死に読み込んでいた当時の私も、そうした主題に自らが添うことを良しとしました。『ぼっち侵略』がそう描かれているのであれば、それに惹かれた自分またそのようであろう、そう自然と意識したのだと思います。あの頃の強迫観念を思えばそれも無理からぬことです。

それでも、それは甘えだったのでしょう。「見えていないこと」と「そこに無いこと」とは全くの別問題です。当時の私は『ぼっち侵略』の全てを知りたいと思う余り、『ぼっち侵略』のあり方に寄り添うことが全ての近道だと思い込み、そこにある筈の物に手を出すことができなかったのです。「性癖」というものが分からなかった私を『ぼっち侵略』が赦してくれたと錯覚した、そう言い換えても良いかもしれません。自分の中にある言葉だけでは気付くことのない陥穽の中に、私は浸っていたのです。

まぁ、いつまでもそれを自分に強いる必要も最早ないでしょう。私が『ぼっち侵略』に添い続ける必要も、『ぼっち侵略』に寄り添ってもらう必要も、今はもう無いのです。

どう思い返しても歪で、理屈を重ね尽くした果てに辿り着いた、「性癖」という概念の理解。本当に今更だったけれど、でも決して手遅れではない、そんな気付きだったと思いました。



※  ※  ※



「よぉ、“おかっぱ”!!」

……みたいな綺麗な終わり方をまぁー赦しちゃくれないのが弊同人サークル〈アレ★Club〉でして。
「性癖」という概念を理解したその翌日午後10時半、さいむはデスクトップPCの前で編集長から激烈な追及を受けていたのである……!!

なお、きっかけは私が上記の話をTwitterでガンガン垂れ流し、挙句に「性癖」という概念を識った経緯をふっつうに編集メンバー内にまとめて公開していたからである。誘い受けだよ、言わせんな恥ずかしい。

「で、結局“おかっぱが好き”ってどういうこと? 説明してみて」

「いや、今の段階はあくまで“性癖”という概念を理屈で学び取っただけであって、自分の性癖が何であるかって分かったわけじゃなくてですね……」

「でもそれが“おかっぱ”って話でしょ? なんでおかっぱ? どうおかっぱ?」(おかっぱが好きなので力が入る編集長※本人談)

……むぅ。否定はできないが間髪入れず次の課題を用意する辺りこの人は本当に容赦が無い……!!

しかしまぁ、理屈が分かっていればそれは使用できるはず。自分にとっての「性癖」がなんであるか、今ならば分かるかもしれません。

「性癖」とは、自分の中には絶対に無い物を、自分の中には無い言葉で説明する試み。

すなわち、『ぼっち侵略』の中には絶対に無い物を、〈ぼっち侵略(独自概念)〉ではない言葉で語ること

「おかっぱ」は『ぼっち侵略』に登場するヒロインの髪型であって、『ぼっち侵略』そのものではありません。コレに何故惹かれるのか、〈ぼっち侵略(独自概念)〉を使うことなくその理由に辿り着かなければならないのです。

まずはロジックを捨てました。『ぼっち侵略』のように理屈を積み重ねてもこの衝動の正体には辿り着きません。
言葉も捨てました。「おかっぱ」とはあくまでも名前に過ぎません。重要なのは髪型そのものです。
心さえ今は必要ありません。心の有り様ではなく、直感こそが必要なのです。

これまでの私ならこれ以上は進めません。でも、今ならばまだ手段は残っています。

理論でも、言葉でも、心でもない最後の一手。

それは、象形でした。


……私、一番好きなポケモンってカブトなんですよ、編集長

「は?」

「ええ。NO.140、こうらポケモン。タイプは“いわ”と“みず”ですね。幼い頃、兄が買ってきたポケモン図鑑の本で一目惚れしまして。新しいポケモンが発売されたらカブトだけでポケモンボックスを埋めるのが通例になったというか。でも、最近のカブトの描き方ってちょっとツボを外してるというか、甲羅が球状で。初代みたいに甲羅の奥が見切れてて欲しかったんですよね、私は。」

「……で、それが?」

Discordの画面共有機能を起動。Googleの画像検索に必要な単語を入力していきます。

「だから、」

第一検索キーワード:【カブト ポケモン 初代】

「こういう、」

第二検索キーワード:【大鳥希】

「ことなんですよっ……!」

ッタァーンッ!

※筆者註:流石にgoogle検索画面をそのまんま見せるのは色々とアレなので、ここからは手元の代替画像でイメージをお届けします。


カブトですね。自宅にあったフィギュアを持ってきました。本当はゲーム画面を使いたかったのですが、ひとまずこれで妥協。


大鳥先輩ですね。2013年10月に行われたサイン会で頂いたイラストです。

拡大します。




😇


――その後の反応は、人それぞれでした。

編集長
「分かったけど分からねぇ!もっと説明して!(この後ペイント使ってすげー解説した)」

事務局長
「(超絶大爆笑かました後に)俺……今年に入って一番笑ったわ……」

下部メンバー①
「……(呆れて物も言えない)」

下部メンバー②
「は!? シルエット!?」

※筆者註:蛇足だとは思いますが、こういう形が好きという意味であって頭がカブトみたいな女性が好みというわけではありません。だから頭にカブト乗っけた女性とかよく分からない話題で詰め寄らないでください編集長。正直嫌いじゃないけど。


この話を終えた頃から、唐突に謂れの無い胸焼けが襲ってきたのをよく覚えています。人間こんな能動的に胸が苦しくなることがあるのか、というか。知恵の実って喰ったらこんな感じなのでは、という気分でした。
それが理由なのかは分かりませんが、その日の就寝前にふと思い出したように読み出した『ぼっち侵略』は、まるで初めて読んだ作品であるかのように、口元のニヤつきが抑えられない逸品でしたとさ。


※本記事は〈アレ★Club〉公式サイト「ジャンル不定カルチャーWebマガジン『コレ!』」にて連載中のコラム「私が『ひとりぼっちの地球侵略』と共に辿り着いた「コンテンツ」の限界」の後日談です。

え、本編が終わってないのに後日談? まぁ……本編の続きはいずれ……。

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