【『GODZILLA 決戦機動増殖都市』は面白かったのか?】アニメ映画『GODZILLA』のテーマを読み解く【アレ★トーク(4)】


前回:【ゲームの世界に「敵」なんて存在しない!?】ゲームとチームの類似点と違い【アレ★トーク(3)】

〈アレ★Club〉のメンバーがGoogle Hangoutで行っている日々の雑談の中から、「一匙の公共性」がありそうなものを「さいむ」が勝手に書き起こし、他のメンバーのチェック無しで記事化する「アレ★トーク」。今回は午後11時を回った頃に、編集メンバーの穂高周が『GODZILLA 決戦機動増殖都市』について話し出したところからトークが始まりました。

★本日の登場人物
・永井光暁
〈アレ★Club〉事務局長。ゴジラは実写作品を全部観ている。

・さいむ
〈アレ★Club〉のWeb編集・文章校正担当。一番好きな怪獣はカマキラス。

・穂高周
〈アレ★Club〉の文章校正担当。『GODZILLA 決戦機動増殖都市』を最近観た。

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※本記事には『GODZILLA 怪獣惑星』および『GODZILLA 決戦機動増殖都市』のネタバレが含まれます、ご注意ください。

穂高周(以下、穂高):
さいむさんが前に話してたアニメのゴジラ(以下、アニゴジ)、『GODZILLA 決戦機動増殖都市』(以下、『決戦機動増殖都市』)まで観ましたよ、気の迷いで。

さいむ:
気の迷いって……ま、まぁいいや。面白かったですか?

穂高:
面白かったですね。

永井光暁(以下、永井):
ただいま、作業始めるぞ~。って、何話してるの?

穂高:
アニゴジを観たって話です。

永井:
……あんなのはゴジラじゃねぇ……。(低い声)

さいむ:
うげぇっ!?

永井:
そこに座れ、言い訳を聞こう。

さいむ:
アッハイ……。

◆アニメ映画『GODZILLA』のテーマとは?

さいむ:
と、とりあえず、今一度感想と立場を確認しますよ。穂高さんは面白かったんですよね?

穂高:
えぇ。ゴジラはそこまで沢山観てませんが『シン・ゴジラ』は観ましたよ。

永井:
ゴジラは実写作品を全部観たけどあれはゴジラじゃねぇ。

さいむ:
アッハイ。私は……そうですね、個人的にはテーマをしっかり設定して掘り下げられている点は楽しめましたけど、一方で面白くないって罵倒されても仕方が無いかな、とは思います。

穂高:
テーマは確かにしっかりしてましたね。『決戦機動増殖都市』は「人がゴジラを倒すには人をやめるしかない」っていう部分が整理されて提示してあって、そこは面白かったです。

さいむ:
『GODZILLA 怪獣惑星』(以下、『怪獣惑星』)でもそうだったんですが、あの世界って恐らく人がゴジラを倒せない世界なんですよね。人類という存在がその頭脳や技術力に勇気やら絆やら、人の情全般を足した総ステータスでも根本的にゴジラに勝てない世界。

穂高:
あー、そんな感じはしましたね。主人公のハルオが愚かですし。

さいむ:
そう、愚かなんですよね。根本的に。人類はある程度ポテンシャルがあっても根本的に愚かだからゴジラに滅ぼされるし、その最前線に立つハルオは地球人類の知識・技能の高さとそれに付随する愚かさが凝縮された存在になってるんですよ。

穂高:
『怪獣惑星』で「地球は元々俺たち人類側の存在であり居場所なんだ」みたいな勘違いも甚だしい言動しててイライラさせられましたね。決戦機動増殖都市で人をやめる可能性を断った結果、ゴジラは倒せないわユウコを失うわで泣き崩れたときはいっそスッキリしました。

さいむ:
あはは……まぁ、そんな人類だからゴジラは倒せないわけで、代わりに違うゴジラを倒しながら滅びゆく人類の後始末というか自己総括をする話になってるんですよね。『怪獣惑星』に出てくるゴジラ・フィリウスは人類が怯えてきたゴジラという存在・歴史の幻影ですし、『決戦機動増殖都市』のメカゴジラシティは人がゴジラになる可能性なんです。両方とも人類の代表たるハルオが特攻かましてトドメに貢献してるのが無駄にきっちりしてるっていう(笑)

◆虚淵玄作品としてのアニゴジ

永井:
二人の話を聞いて思ったんだけどさ、やっぱりゴジラ・フィリウスもメカゴジラシティもおかしく感じる。個人的にはそれらは余計だし、「普通にゴジラとメカゴジラを出せよ」って思ってしまう。

さいむ:
ゴジラ・フィリウスはオチの前振りっていう意味合いもありますけど、多分今までのゴジラ作品の歴史っていう意味合いも含まれていると思います。そういう過去作品を乗り越えてもゴジラそのものには勝てない、みたいな。

穂高:
メカゴジラは予告で散々出てきそうな気配を匂わせておいて「シティ」っていうのはちょっとひ酷いなと思いました。なんで素直に出さないんでしょうね。

さいむ:
悪ノリで意外性を出したんじゃないかっていう以外での意味で言えば……メカゴジラっていう存在について色々考えて掘り下げちゃった結果だと思います。メカゴジラって要するに「人がゴジラの力に手を伸ばした象徴」なんですよね。ゴジラを真似て、ゴジラのようになりたいっていう。で、その力をより人間にマッチする形で授かろうとするなら、ゴジラの力が人間の生活、つまりは文明に馴染んだ方が早いんですよ。だからメカゴジラシティっていう発想になるし、その先に行こうとすると人がメカゴジラと融合することになる。

穂高:
なんというか、そういう「力に手を伸ばしたせいでひどい目に遭う」っていう展開、虚淵玄(以下虚淵)の作品に多くないですか?

さいむ:
私もそんな気がします。「強い力を道具として扱わないと、度を過ぎた力からしっぺ返しを喰らう」的な展開が多いんですよね。今回の話で言うと、決戦機動増殖都市でマイナがメカゴジラを構成するナノメタルを「弓矢の毒」という道具以上に使わなかったのは、超越的なものと人がどう向かい合うかっていうテーマにおける虚淵の一つのアンサーだと思ってます。

穂高:
もうすぐ二期が始まる『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』や『翠星のガルガンティア』もそんな話でしたね。あくまで人の域を超えた力をあくまでも道具として手懐けないといけないっていう話になってましたから。

永井:
虚淵作品としてはテーマが一貫してるってことか。でも、やっぱり微妙な気もするなぁ……。

◆なぜゴジラは植物なのか?:優占種としてのゴジラ

永井:
第一さ、植物のゴジラって何なんですかね。そんな設定もあんなムキムキな体型もゴジラに必要なのか未だに分からない。ケロイド状の皮膚とかの面影が何処にもないしね。

穂高:
あれは……確かに何なんでしょうね……。

さいむ:
説明できなくはないんですけど……たとえば、人類以外に地球を支配しきっている生物を想像するとして、仮に人類が滅んでも植物ならすぐ復活しそうじゃないですか。そういう地球を独占できる生物の存在を想像した結果だと思うんですよね。

穂高:
あぁ、つまり優占種なんですね。生物の中でも特に量が多く、その生態系を特徴づける種のことです。

さいむ:
あー、凄く便利ですねその言葉、それ使います。だから今回のゴジラは、地球における優占種としての立場を人類から奪う存在っていう意味合いがとても大きいんですよね。『怪獣惑星』でゴジラを頂点とする生態系が作られていたのもそれが理由かと。

穂高:
よくゴジラの説明で使われる神っていう言葉を別の角度から解釈したんでしょうね。生態系における人類の上位存在ってことなんでしょう。

永井:
でもそれさ、最初からゴジラが地球を支配しているのならゴジラによる破壊のカタルシスというか、人類の傲慢さの象徴である街を一方的に蹂躙する様子の崇高さがないんじゃない?

穂高:
確かにそういう欠点はありますね。街も人もなく、ゴジラは全てを破壊できる力を持ちながら普段は宝の持ち腐れになっていますから。

永井:
そういう辺りのことを『シン・ゴジラ』はちゃんとやってたよね。ウチのサークルでも前に話したことがあったね。

さいむ:
新規性のあるテーマを求めて作品を尖らせた代償って気はします。そもそもアニゴジがゴジラが人類を負かした後の世界であるのも、「人類がゴジラに脅かされ競り合う話はもう幾度も描かれているから」っていう理由が含まれていると思いますし。

◆ノベライズ版『GODZILLA』は映画の補完たりえたのか?

永井:
うーん……個人的には、それで却って面白くなくなってる気がするんだよなぁ。新規性を求めたっていうテーマの部分は理解できても、絵面が悪いしゴジラという存在のディティールの意味合いが薄れてるように感じる。たとえば、ゴジラのケロイド状の皮膚って、原爆や放射能汚染による影響っていう意味があるけれど、優占種としてのゴジラを求めるあまりそこがオミットされたのはどうもなぁ……。

さいむ:
人類が生み出した罪を同じ人類の罪でもって、多数の犠牲と共に上書きする話ですもんね、初代のゴジラは。

永井:
そういう話が丸々無くなって、本当に「ゴジラ」って言えるの?

さいむ:
あー……実はですね、アニゴジの前日譚にあたる小説が二冊発売されてまして。そっちで人類がゴジラに負けるまでの話をとても丁寧に描いてるんですよ。しかも面白いんですよこれが。たとえば……。

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アニメ映画『GODZILLA』のノベライズ。人類がゴジラと初めて遭遇する前日譚となっている。

(小説のネタバレになるので一部省略。ご自身で読まれることをオススメします)

永井:
……いいじゃないか! 過去作の怪獣の出し方が面白いし、ゴジラの描写も悪くないし。なんでそっちを映画でやらなかったのかね?

さいむ:
本編の内容を捻じ曲げない程度に自由奔放に前日譚を描けたからこそここまで面白くなったていう側面はまずあると思います。それに……前日譚って言っても、読んでるとあんまり補完するお話になっているっていう感じがしないんですよね。

永井:
というと?

さいむ:
あくまでもアニゴジ本編は人類がゴジラに負けた後の話で、それまでの歴史の話って断片的な情報以上は徹底的に描かれないんですよ。せいぜいがハルオの回想くらいです。だから小説の前日譚を読んでいると……アニゴジ本編ではこういう話を絶対やりたくないからこそこちらの小説に全て丸投げして委ねてしまったんじゃないかって気がしてしまうんですよね、逆説的に。

穂高:
あぁ、アニゴジ本編でそういう要素が無かった事実を小説版が逆に強調しちゃってるんですね。それは確かに補完とは言いたくなくなりますね。

永井:
………後で小説を買って読むわ。

◆まとめ:アニゴジはどう完結していくのか?

さいむ:
あ、もう12時過ぎて日付変わっちゃいましたよ。そろそろ寝ますしまとめましょう。永井さん、話してみていかがでしたか?

永井:
まぁ……やりたいことは分かったけど……やっぱりダメだろ、とは言いたい。

穂高:
先程話していた「新規性のあるテーマを獲得した代償に従来のゴジラのディティールに宿っていた面白さはゴッソリ損なわれてしまった」っていうのが、今回の大まかな結論になるんじゃないでしょうかね。

さいむ:
アジゴジにはその他にも細かい欠点がありますし、やっぱり賛否両論分かれるのは仕方がないと私は思います。

永井:
ちなみにアニゴジは次回がラストですが、キングギドラが出てくるって聞いたけどどうなんですかね?

さいむ:
この前、映画館で宣伝のチラシを貰いましたけど、メカゴジラと違って今度こそちゃんと出てくるみたいですよ。「高次元怪獣ギドラ」って書いてありました。

穂高:
高次元って……そのまんま上位存在じゃないですか。惑星間のワープとかしてくるってことですかね。まあゴジラより強い、さらに絶対的なゴジラって位置なのかなぁ……。

さいむ:
意外性のある展開続きでしたし、ゴジラとギドラのどっちが勝つのか、そもそも戦うのかすら若干疑問符が付きますけどね。

穂高:
取り敢えずハルオは今までの責任を取って息絶えた方がいいと思います。メトフィエスに抱えられているビジュアルも公開されてましたし。

永井:
ひどい(笑)

さいむ:
今までが色々な意味合いのゴジラをハルオが倒していく話でしたし、ハルオが最後にゴジラかギドラどちらかを倒すことに加担しさえすれば、三部作全部「ゴジラそのものは倒せないけど別のゴジラを倒した話」で筋は通ると個人的には思います。その辺りのテーマの掘り下げは怠らなかった作品ですし、そこは一応信頼してますね。

穂高:
まぁ、無理に予想しても当たる気はしないし、ハルオが人類と自分をどう総括するかだけ見届けますよ、僕は。

永井:
……僕は期待してないけど、観たら感想は教えてね。

さいむ:
はーい。

アニメ映画『GODZILLA』公式サイト

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[記事作成者:さいむ]